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2019/05/21 16:42 |
胡蝶の夢(6)

ぴちょん・・・
ぴちょん・・・

窓を流れる雨露が途切れては滴り、滴っては途切れ。
地面の水溜りに落ちると小さな水音を立てる。
一恵はうつらうつらとしながら、かすかに聞こえる水音を聞いていた。
どちらが夢で現でと、判別しがたい思考の中で、もしかしたら夢を見ていたのかもしれない。
誰かに起こされて、はっきりと意識が舞い戻ってきたから。

「風邪ひくわよ、一恵くん。」
一瞬の既視感。しかしそれは目の前にいた人の輪郭が明瞭になるにつれ、違うものだと分かっていった。
「紅子さん・・・。」
背もたれに預けていた体を起こして居住まいを正しながら、居眠り後の乾いた目をこする。
思わずくわっとあくびが出て、同じくにじみ出た涙に目の乾きもすっかりと癒える。
いささか出すぎた涙が目尻を伝い、手の甲でぬぐって紅子を見上げた。
「こんなところで寝てて、風邪でもひいたら大変じゃないの。」
小さな子供を叱るように、おでこを突かれた。痛いわけではないのだが、なんとなく額に手を遣った。
こんなところ、と言われて改めて自分のいる場所を思い出す。
マンションのエントランスを抜けたロビーに置かれたソファのひとつ。
「水流を待ってたの?」
見上げた顔は全ての事情を知っているかのような、複雑な表情で。
そうだったと一恵は思い出す。

学校が終わってから送迎の車も無視して、一人で電車に乗って此処まで来たのだった。
水流尊に会いに。
彼の本心を聞きに。
しかし学生の就業時間が終わっても、多忙な社会人の就業時間は続いているらしく、インターホンを押せども部屋の主は出なかった。
仕方がなく、彼が帰ってくるまでと思って手近なソファに身を預けたのだが、意外と心地よい布張りのソファは間を置かず一恵を夢の世界に誘うのだった。

「あーちゃんは?」
秘書の紅子が帰宅しているのだ。当然、担当している上司がいまだ会社に残っているはずもない。
「私よりも先に帰った。」
退社後どこかへ行く用事もないと言っていたから、きっと家に居るはずだと紅子はわざわざ携帯電話を取り出して尊に連絡をとった。
すぐに繋がった電話に二言三言取り交わして、紅子は一恵に頷いてみせた。
パタンと携帯電話を閉じると手を差し伸べてきて、一恵は一瞬きょとんとした。
すぐに、立ち上がるのに手を貸してくれるのだと思い当たって、紅子のきれいな手を握り締めた。途端に引き上げられる自分の体。
紅子はニッと笑って一恵の頭を力いっぱい撫でる。勢いに負けて首から上が胴体にめり込むかと思った。
「地下の駐車場から入ってるから、ここを通ってないって。」
誰が、とは言わない。それは尊に他ならないから。ここを通っていれば一恵に気付かないはずはない。
「だからあーちゃんは俺のこと避けてないって言いたいんですか、紅子さん。」
言ってから、自分はなんて子供なんだろうと思った。
黙って相槌を打っておけばよかったのに、わざわざ気まずいことを言って部外者の紅子に余計な気を遣わせるだけじゃないか。
だけど一瞬の感情は憤ってて、言外に気遣われたことが癪に障った。
一恵の後悔が顔に出ていたのだろう、紅子は長い睫毛を瞬かせて一恵を凝視していた。
そして破顔一笑。
「そうよ。」
ごくあっさりとした返答に、一恵の方が面食らった。
「水流はどんな事情があっても風邪ひきそうな状態の子供を放っておかないし、わざと地下駐車場から帰ったわけでもない。」
紅子は一恵の手をとって歩き出す。子供だと言われるのに反発したい年頃だが、たった今自分が子供であると自覚したところなので何も言えない。
「避けられてるなんて思うことがあるんなら、じめじめ考えてないで、どーんと直球勝負してきなさいよ。男だろ!」
バンッと背中を叩かれて息が詰まりそうになった。エレベーターに乗りながら、ゲホっとむせた。
だけれど紅子のこの気性が好ましくて、思わず一恵は笑ってしまう。

一恵の背中を叩くために離した紅子の手を、今度は一恵が握る。


「俺さ、紅子さんのこと好きになればいいのかな?」


紅子の恋人は、きっと幸せだろうと思ったから言ってみた。
情熱的な紅子のことだから、恋人のことはきっと一等愛してくれる。
このつないだ手を、決して離さない。
そう思ったから言ってみた。
だけれど紅子はきょとんとした顔で、その後豪快に笑い出し、空いてるもう片方の手で一恵の頭を叩いた。
「痛っ」
衝撃につぶった眼を、おそるおそる開けてみたら鼻が触れそうなところに紅子の綺麗な顔があって、一恵は驚いたと同時に赤面した。
「顔は好みだけどね~~、対象外!」
「なんで?年下だから?紅子さんより背が低いから?佐想だから?」
考え付く限りの理由をあげつらってみたけれど、どれも違うと紅子は一笑に付す。
その内にエレベーターが紅子の家の階に到着して扉が開く。
紅子は一恵の手を解いて、エレベーターから降りた。
「ねえ!」
紅子のことを好いているわけでもないけれど、ただ理由を聞きたくて。
振り返った紅子は綺麗な唇に綺麗な笑みを透いていて、綺麗な指で一恵を指す。

「男は、対象外。」

硬質な音を立てて閉まった扉に閉じ込められて、ぐんぐん上に上がっていく。
そういえば、と思い出す。根本を失念していた。
なんだか可笑しくて、誰も居ない密室だから声を立てて笑った。
「俺、男だった。」
男は男らしく、直球勝負。
紅子の言葉を実行しようではないか。

エレベーターは程なくして到着のチャイムを鳴らす。


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忘れた頃にやって来る、春日パラレル第6弾!!
ここでも紅子さん大活躍!びばお姉さま!
一恵×紅子(むしろ紅子×一恵)も良いなあと思いつつ、紅子さんがアレなのでありえない。
軽々しく好きだとか、感情が伴わないのに口にするなって紅子さんは一恵に説教するところだったんですけど、長くなるのでやめた。
だって眠い・・・。
しかもあんまり意味がないので。

あしたからまた仕事だよー。いやだよー。
冬コミ行きたいよー。
今年は行けるかもしれない。年末なら望みがある!
うほほいうほほい。
なんかサークル活動とかしたいんですけど、何かしようと思うほどの情熱を傾けてる作品がない。
このサイトしか今は情熱がない。
じゃあいっそ・・・
予定は未定。
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2007/09/18 00:51 | Comments(0) | TrackBack(0) | 小説ネタ帳

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