忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/04/26 16:39 |
胡蝶の夢(4)
そろそろ夕食の時間も近づこうかという頃に、ようやく両親は帰ってきた。
バタバタと慌しく入ってきて、母親は夕飯の仕度をしだす。
「ごめんなあ、今日来る言うとったけど外せん用事が入ってなあ。」
父親は客の相手にまわるらしく、尊と一恵が居るリビングに足を運んできた。
「こんにちは、ご無沙汰しています。」
「お帰り。」
尊は手を止めて父の方に向き直った。
遊び相手をとられた一恵は面白くなさそうに唇を尖らせた。
しかし尊にだって大人の付き合いというものはあるのだから、仕方がない。ここで一恵が子供の我儘を押し通せば、迷惑をこうむるのは他ならぬ尊であるし、そんなことをするほど一恵も幼くはない。
「二美は?」
「部屋。」
いつも一緒にいるはずの双子の片割れが居ないことに訝しんだ父から簡潔な疑問を、一恵は簡潔な答えでもって返す。
尊と一緒に父の後についてソファに腰掛けた一恵は、二階から二美がパタパタと足音を鳴らせて下りて来るのを聞いた。
「おとーさん、おかえりっ」
台所の方へ駆けて行く姿が一瞬だけ掠めて、二美の声が流れて届いた。
母親を手伝いに行ったのだろう。
自分も手伝いに行かなくてはと、一恵は腰を上げる。
くつり
隣で尊が笑った気がした。


食卓は一人増えただけなのに、いつもより賑やかだった。
6人分の食事と食器がテーブルに所狭しと並べられ、止まることなく音を鳴らしている。
暫く来なかった尊は母にあれやこれやと近況を報告させられて、年齢の話から結婚の話題に到達すると、身を固くして曖昧な笑顔を浮かべていた。
いつもとどこかぎこちない尊の様子に、一恵はただなんとなく不思議に思う。
「なあ、今日のあーちゃんどっかおかしいなあ。」
同意を求めるように隣に座る二美に話を振ると、二美もぼんやりしていたようで一恵の呼びかけに遅れて返事する始末。
「あ、え?なに?」
全く話にならないと、一恵は途中で話しをやめた。

いつもは食事を終えた者からリビングに移動していくのだが、今日は尊が改まって話があるというので一恵をはじめ子供らは部屋に追いやられた。
だが予想に反して尊が皆に聞いて欲しいと申し出るので、リビングのソファではなく応接室のソファに移動することになった。
初めに父がソファに掛けると、その隣に母、向かいに尊が座り、一恵は三子の手を引いて、母の傍でソファにもたれかかった。
最後に入ってきた二美は、一旦部屋の中を見回して、戸惑うように尊の横に腰掛けた。
二人がまとう雰囲気が、どうしてだか同じような気がする。
顔を見合わせた尊と二美に、直感のようなものを感じた。

尊が口を開く前に一恵は叫んだ。
「俺は認めへんぞ!」
「一恵!」
身体が憤怒に蝕まれたように、熱く渦巻いている。握り締めた拳は、内なる感情をもてあました現われか。
憎しみに満ちた眼差しを投げかけるのは、片割れを自分から引き離す相手だけではない。
自分から離れていこうとする片割れにも。

しかし彼女から返ってきたのは挑むような眼差しではない。兄弟だから喧嘩することは毎日のようにある。一恵が憎しみをぶつけたら、彼女も負けじと怒りをぶつけてくる。
さんざん互いに罵りあった後に、何事もなかったかのように自然と仲は元通りになっている。それが日常だった。
だから今回もいつものように鋭い眼差しが返ってくると思っていた。
だが二美が瞳に宿す感情は、悲しみ。
一恵の激昂に耐え切れず、瞳を伏せてそれでも涙をこらえていた。
一恵はそんな妹の眼にショックを受けた。だけれど二人の仲を許せるはずもなく、もう二人を見ているのも嫌で、部屋を飛び出した。
「一恵!!」
二美を始め、部屋に居た皆が彼を呼び止めたが、かまうものかと一恵は駆けた。
階段を一段飛ばして駆け上がり、突き当たりの自分の部屋に入るとベッドに潜り込んだ。
枕を抱いて上から布団を被って、外界から一切を遮断した。


この心に渦巻く感情を一恵は知りたくはない。
弱い自分は嫌いだ。弱い自分は認められない。
明日起きたら全てが夢で、いつも通りに二美が笑っておはようと言ってくれる。
二人はいつも一緒で、いつまでも一緒のはずだ。
一恵は、独りになんかならない。


^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

忘れた頃にやってくる春日パラレル一恵ワールド。第4弾。
寂しがりやな一恵たん。
一恵が飛び出して行ったあと、応接室では気まずい雰囲気で尊君が両親にご挨拶をします。
友三んはショックで一恵並みに取り乱しますが、大和さんの手綱さばきが上手いので部屋を飛び出したりはしません。
大和さんは昔の約束が果たされたと感無量。因みに尊君は昔の約束覚えていません。十歳やそこらの子供の記憶、25にもなって憶えてます?無理よね。

まだまだ続く
PR

2007/05/27 22:17 | Comments(0) | TrackBack() | 小説ネタ帳

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<ありがとうございます | HOME | 更新しました>>
忍者ブログ[PR]