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2024/04/25 14:59 |
ひふみたんのなまえ
太陽の光が燦々と降り注ぐ初夏の日。
庭の木々がその光を遮って、まだら模様を芝の上に落とす中を僕は人を探して歩いていた。
大きな屋敷の大きな庭の中、綺麗に刈り込まれた植木の間をくぐり、または自分の背丈ほどもある蔦を掻き分けて、僕はその人の名前を呼んだ。
「ふみー?ふみー?どこにいるのー?」
だけれど目的の人からは返答もなく、僕は延々と庭を探し回るのだった。

探し人はこの大きな屋敷の主の可愛い孫娘で、名前を佐想ひふみという。
僕は屋敷の主とその息子夫婦に幼い頃からなにくれとなく世話を焼いてもらっており、自分で言うのも恥ずかしいのだけど、実の両親よりも懐いている。
実家が好きではない僕はこの屋敷に入り浸っては、この家で遊んでいたのだが、数年前にひふみという女の子が生まれてからは、もっぱらその子の遊び相手をしている。
僕には初めて妹が出来たような感覚で、歳も離れているせいかこのひふみが可愛くて仕方がない。
あーちゃんあーちゃんと呼ばれて付いてこられては、その可愛らしさに頬が緩むし、こうして姿がなくなれば、探し回るのも苦にならない。
探し当てた時の彼女の嬉しそうな安心するような表情に、僕は自分の存在意義を実感する。

「ふーみー?ふーみー?」

彼女の名前は「ひふみ」だけれど、僕は「ふみ」と呼ぶ。
それは彼女の母親に、そう呼んでくれと言われたからで、理由は知らない。けれどその時の彼女の母親は、どこか悲しそうな表情で、彼女を腕に抱いていた。

僕は垣根の向こうの木製のベンチに、地面に届かない足をぶらぶらと揺らして座る彼女を見つけた。
「ふ・・・」
名前を大声で呼ぼうと思ったところでふと彼女の様子がおかしいことに気付いた。
泣いてるとか元気がないとかそういう類のおかしいではない。
むしろ上機嫌でニコニコと笑っている。
一人で何がそんなに嬉しいものなのか・・・?
それに良く見てみると、彼女は誰かに向かって話をしている。
だけれど向かう隣には誰もいない。
それでも彼女は身振り手ぶりもまじえて、一心に隣の誰かと話をしているようだった。

「ふみ・・・・・・?」
彼女が得体の知れない者のように感じられて、彼女を連れ戻したくて、僕は小さく彼女の名前を呟いた。

それは彼女の、彼女だけに与えられた、真実の名前。
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2006/11/08 23:50 | Comments(0) | TrackBack() | 小説ネタ帳

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