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2019/05/21 16:14 |
ひふみたんのなまえ 2
肌に刺さるような眩い日差しになりつつある初夏の庭。
夏の温風にはまだ足りない、少し涼しい風が吹く。

ふみは外に出るときに母親から被らされたつばの広い帽子を、ベンチの脇に放り捨てて、それがさっきの風でころころと転がっていく。
帽子は何の因果か僕の足元に、止まることなく転がってきて、僕はそれを無言で拾い上げた。

遅れて彼女は転がる帽子に気付いたのか、足元を確認して、帽子の軌跡を辿るように僕の存在に気付いた。
「あーちゃん。」
いつものように嬉しそうに、頬を紅潮させて僕の名前を呼んだ。
そして危なっかしくベンチを降りて、一目散に僕へ目掛けて突進してくる。短い足を一生懸命動かして、転がるように駆けてくるので、僕も慌てて前へ乗り出し彼女を抱きとめた。
「あーちゃんあーちゃん」
体をかがめるとすぐさま首に腕を回して、まるでコアラの仔のようにしがみ付いて離れなくなる。

彼女が座っていたベンチに視線を送ると、そこには誰もいない。
彼女が一人遊んでいたと思しき道端のタンポポが、ベンチの上に行儀良く並べられている。
彼女は誰かがいることを想定して、一人でごっこ遊びでもしていたのだろうか。そう思えば、彼女の奇行も独り言と片付けることができる。
けれど僕は、少しばかりの好奇心でもって、しがみ付く彼女に問いかけた。
「ふみ、誰かと遊んでた?」
もう、彼女の一人遊びと心の中で解決させていた僕は、返ってくる答えが否であると信じて疑わない。
だけれど一縷の好奇心がそうさせた。

だから、彼女が顔を上げて、僕の顔を見ながら、満面の笑みでもって肯定するとは思いもしなかった。


「うん、イチと!!!」


「・・・・・・・イチ?」


だけれどベンチには誰もいない。
彼女を振り返らせて、確認させれば彼女は言葉を重ねる。
「イチはすぐに居らんようになる。」
「イチが帽子転がったって教えてくれた。」
「あーちゃんが居るってイチが教えてくれた。」
嬉しそうに「イチ」のことを話す彼女は気づいていないのか。
僕が彼女を見つけたときには、彼女の目の前には、確実に「イチ」が居たのか。
けれど僕は知らない。

彼女の見ているものも、「イチ」の存在も。
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2006/11/09 14:59 | Comments(0) | TrackBack(0) | 小説ネタ帳

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