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2024/04/24 16:55 |
胡蝶の夢(2)
予想以上に母親と下の妹の口が堅かったのと、二美が一恵の不穏な空気を感じ取ったのか、『二美の彼氏』の正体はいまだ掴めず一恵は些か情緒不安定な日々過ごしていた。
けれどそれを人に気付かせるわけもなく、一恵はいつも通りに生活を送る。一恵は人より優位に立つことはあっても劣位に立つことはない。人に弱味を見せることはあってはならない。
いつでも他人を牽制して生きている一恵には一分の隙も見せてはならない。佐想のトップを目指す彼にとって、それは幼い頃から決めていたこと。
他人には頼らない。
信じるものは己のみ。
自らの足で立ち、自らの手で全てを掴むのだ。
佐想のトップを望むなら、そういう人間であることが前提条件。
誰よりも何よりも聡明でなくてはならない。

本当なら、妹の彼氏ごときで心を囚われていてはいけないのだと分かっている。
だけれど二美は一恵にとって特別で、何者にも代え難い己の半身。
庇護するべき対象で、この世で最も愛する人間なのだ。

今日も二美は一恵の傍に居らず、学校も別々に帰ってきた。
誰もいないリビングに入って目を伏せた。
以前なら必ず二美がいて、寂しくなどなかったのに。
二美がいたから寂しいと思ったこともなかった。
だから、余計に腹が立つ。
一恵の傍を離れる二美も、二美を連れて行く人間も。



「こんにちは、イチいるかい?」
思いのほか深い思考の渦にはまり込んでいたようで、来客にも声を掛けられるまで気付かなかった。
声に現実へ引き戻されて、リビングの入り口を見た。
「ああ、」
誰かと思った。
他人に思案顔など見せたくはない。
だから彼だと分かった時は胸を撫で下ろした。
「あーちゃん。」
幼い頃から刷り込みのように慕っている人。
唯一と言って良い、心を開いている他人。
こうしてふらりと家に遊びに来ては、何をするでもなく一恵や二美や三子の相手をして帰っていくのだが、これでも多忙な大手商社の御曹司というのだから驚く。
一恵はあからさまに頬を緩ませて彼を出迎えた。
「あーちゃん今日は何時までおんの?」
この間は用事があるからとすぐに帰ってしまった。
「ああ、今日は大和さんと友三さんに用事があるから、晩御飯ご馳走になるで。」
「ほんま!?せやったら二人が帰ってくるまでゲームせん?新しいやつ買ってんで~。」
一恵はテレビ台からゲームソフトの入ったケースを出してきて見せた。
「こないだ出たやつやん。最近やってないから鈍ってるかも。」
彼はやる気満々で、一恵の後についてテレビの前に座った。
「あーちゃん、上着くらい脱いだら?」
背広が窮屈そうだったので、一恵は彼に言った。仕事帰りなのだろうか。
パリっとスーツを着込んで、彼も大人なのだなと改めて思った。
それもそのはず、彼は一恵よりも十歳も年上。二十もとうに過ぎた立派な社会人だ。
「いや、いいよ。友三さん帰ってきた時にちゃんとした格好でおりたいから。」
「?ふーん。ほんならエエけど。」
彼がいいなら別に無理強いはしない。
そう思って何も深く考えなかった。彼の言葉を深く捉えなかった。
彼を信頼しきっていた。

一恵すぐにゲームに夢中になる。
だから不覚にも気付かなかった。


隣で彼が小さく溜息を吐いたことを。



^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

不定期に続く春日パラレル番外編第2話。
毎日更新!?と思いきやさてさてそれはどうでっしゃろ?

名前をどこで出していいのか掴めなかったので、名無しのあーちゃんです。
一恵はあーちゃんのこと大好きです。絶対の信頼をおいています。
さてさて、あーちゃんの運命やいかに!?

一恵の好意ランキングとしては
1位 二美
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^(越えられない壁)
2位 祖父
3位 母親(大和)
4位 三子(下の妹)
4位 あーちゃん(尊)
5位 父親(友三)

ってな具合。3位以下は殆ど大差ない。あ、でもその中でも父親は絶対に一番下になるのは確実(笑)
お祖父ちゃんは尊敬の対象というか、一生の目標。
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2007/03/06 01:20 | Comments(0) | TrackBack() | 小説ネタ帳

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