その日は誰にも何も言わずに、僕はいつも通りにふみの遊び相手をして帰った。
けれど、その日を境に「イチ」はたびたび彼女の口に上ることになる。
違う日に、僕はふみと一緒に庭を散歩していた。
彼女と手を繋いで、木陰を歩いていると、彼女が低木の根元を指差して口を開く。
「あーちゃん、イチがあっこいてる。」
僕はぎくりとして、それでも彼女の指差す方向を見たけれど、やはり誰もいなかった。
ただ、風一つないのに木の葉がそよいでいる。
「手ぇ振ってるよ。」
そう言って彼女が手を振り返すと、低木は耳にも高く音を鳴らせて枝をたわませた。
その瞬間、僕は夢でも見ているような気分で、体は動かない分心臓が激しく活動していた。
じっと待てども、低木の影から犬猫が出てくる気配もなく、いよいよあり得ない出来事だと、僕は少し怖くなった。
けれど隣のふみは慣れているのか、全く動じた様子もなく、僕の手を振り解いて低木の方へ歩み寄っていった。
そして振り返り、僕の方に笑いかける。
「イチがあーちゃんのこと呼んでるよ。」
「え。」
どうして。というか、僕は「イチ」のことを何も知らない。
それに何の用があって「イチ」が僕を呼ぶというのだろう。
僕はふみの隣に居るかもしれない、「イチ」をじっと見た。
そんなことをして見えるわけでもなく、だけどかすかに揺れる木の葉をたよりに「イチ」の存在を探した。
でも、我慢できなくて。
本当に怖かった。
未知なる物に対する恐怖は誰にでも起こりうるものだと思ってる。
だから別にかっこ悪いだなんて思わない。
けど、あそこにふみを一人残してきたことは、申し訳なかった。
でもきっとふみは言うんだ。「イチが一緒やったから一人ちゃう。」
僕は踵を返して、屋敷へと逃げ帰った。
けれど、その日を境に「イチ」はたびたび彼女の口に上ることになる。
違う日に、僕はふみと一緒に庭を散歩していた。
彼女と手を繋いで、木陰を歩いていると、彼女が低木の根元を指差して口を開く。
「あーちゃん、イチがあっこいてる。」
僕はぎくりとして、それでも彼女の指差す方向を見たけれど、やはり誰もいなかった。
ただ、風一つないのに木の葉がそよいでいる。
「手ぇ振ってるよ。」
そう言って彼女が手を振り返すと、低木は耳にも高く音を鳴らせて枝をたわませた。
その瞬間、僕は夢でも見ているような気分で、体は動かない分心臓が激しく活動していた。
じっと待てども、低木の影から犬猫が出てくる気配もなく、いよいよあり得ない出来事だと、僕は少し怖くなった。
けれど隣のふみは慣れているのか、全く動じた様子もなく、僕の手を振り解いて低木の方へ歩み寄っていった。
そして振り返り、僕の方に笑いかける。
「イチがあーちゃんのこと呼んでるよ。」
「え。」
どうして。というか、僕は「イチ」のことを何も知らない。
それに何の用があって「イチ」が僕を呼ぶというのだろう。
僕はふみの隣に居るかもしれない、「イチ」をじっと見た。
そんなことをして見えるわけでもなく、だけどかすかに揺れる木の葉をたよりに「イチ」の存在を探した。
でも、我慢できなくて。
本当に怖かった。
未知なる物に対する恐怖は誰にでも起こりうるものだと思ってる。
だから別にかっこ悪いだなんて思わない。
けど、あそこにふみを一人残してきたことは、申し訳なかった。
でもきっとふみは言うんだ。「イチが一緒やったから一人ちゃう。」
僕は踵を返して、屋敷へと逃げ帰った。
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